hpの新Androidタブレット(或いはスレートPC)に感じたマーケティングの難しさ
今回紹介されたAndroid端末は
- 7型タブレット端末 → Slate 7(8月6日より直販サイトで発売、店頭販売は8月下旬)
- ハイブリッド型端末 → SlateBook10 x2 (9月上旬発売予定)
- オールイン・ワン端末→ Slate21 All-in-One(9月上旬発売予定)
の3種類。
日本ヒューレット/パッカード株式会社コンシューマービジネス本部の室裕朗氏に依れば、今回のように形態や大きさの異なる複数種のタブレット(スレートデバイス)を展開する目的は今後の市場変化やニーズの多様化に対する同社のマルチOS、マルチフォームファクター戦略の一貫とのことで、Android端末群は既存のスマートフォンユーザーやライトユーザーを念頭に置いているそうです。
では、それぞれの端末についてインプレを。
1.Slate7
売りはなんと言ってもAndroidでは初となる「Beats Audio(TM)」システムによる重低音が心地よく響くサウンド。「音に拘った」と言うだけの事はあって、程良い低音の強調と中音域にもキレがあり全体的に締まった感じの音を聞かせてくれます。音源に依る部分もあるのでしょうけれど、脳内にズンズンと響くだけの重低音ではないので聴き疲れも少なく好印象です。
但しこの機能、ヘッドホン端子からの出力のみ、と言う事で内蔵スピーカーはおろか、Bluetoothにも非対応との事。折角良い音が出るのに出力方法が有線ヘッドフォンに限定されるのは実に惜しい!ですね。Bluetoothだけでも早急に対応して欲しいものです。
さて、本体は7inchのタブレットと言う事で外寸と重量はGoogle Nexus 7とほぼ同じなんですが
(写真 左側:Nexus 7 右側:Slate 7)
- 液晶の表示解像度(1024×600)
- ストレージ容量(直販モデルでは8GB、但しmicroSDカードによる拡張は可能)
- 320gと重めな重量
- 最大で5時間と言う短いバッテリー寿命
など、13860円(hp直販価格)、店頭販売でも2万円前後と「価格ヤスク」を達成する為にスペックでかなり切られた部分が各所に見受けられますが、心地よい音で音楽や映像を気軽に楽しみたいユーザー層に対して果たしてどの様に受け取られるのか?が、肝となりそうですね。
一方、ソフトウェア面に目を向けると音楽や映像のネットサービスとシームレスに楽しむ為の仕掛けがない所が気になります。例えば音楽や映画をバンドルして(ストレージ容量が8GBでは難しいのかも知れませんが)購入したら直ぐに楽しめるプロモーションが無ければ、特にカジュアルユーザーへのアピールは難しいのではないでしょうか。
2.SlateBook10 x2
hpでは一台二役でタブレットにもノートPCにもなる端末をハイブリッドPCと呼んでいます。同社のハイブリッドPCにはWindows8搭載の「Envy11 x2」がありますが、本製品と外観がそっくりなので数値を比べてみました。
SlateBook10 x2 | Envy x2 11 | |
長さ (mm) | 258 | 303 |
幅 (mm) | 194 | 206 |
厚さ(最大 mm) | 20-22.5 | 19 |
重量(合計 kg) | 1.25 | 1.41 |
SlateBook10はEnvy x2より一回り小さな液晶を採用した事もあって、外寸はより小さく、重量も100g以上軽いのでタブレット単体でもキーボードと共にフル装備の場合でも、より気軽に持ち歩く事が出来そうです。
着脱可能なキーボードドッグの気になるキータッチはEnvy x2とほぼ同じモノで強いて言えばストロークがやや浅いかな?と言うレベル、アイソレーションタイプのキーボードとしては良好な部類だと思います。
キーボード周りで残念だったのは日本語IMEが未実装であったため、日本語入力能力(変換時の反応や効率など)を確かめられなかった事。どの日本語IMEを導入するのかは現時点で未定だそうですが、ここはATOKを是非お願いしたい所です。そうなればAndroid最強のテキスト打ちマシンとなるポテンシャルを秘めてます。
ただ、悩ましいのが5万円前後(hp直販価格)と言う値付けです。あと1~2万円追加すれば使用用途の広いEnvy x2が買えてしまうのですから。或いは7inchクラスのタブレット+高品質なワイヤレスキーボードの組み合わせですと4万円前後に収める事も可能です。
つまる所、Androidでキーボードと一体感のあるタブレット端末を欲する、ニッチな製品と言えそうです。
3.Slate21 All-in-One
大画面Androidは既に数社から発表・発売されていますが、キーボード&マウス付き、すなわち液晶一体型PCタイプはこれが初めてかも知れません。
キャッチフレーズは「みんなで使える大画面」。液晶パネルが2点タッチと言う点が少々気になりますが、モニターは背面のスタンドを調整する事によって15~70度まで可変可能。実際に大画面でアプリを動かしてみると、使い慣れたAndroidアプリを大画面で操作出来るのはまだタッチ対応ソフトが少ないWindows8に対してアドバンテージとなるかも知れません。
付属するキーボードは有線でUSB接続するタイプで、WindowsキーがAndroidのホームキーに変わった以外はごく普通の日本語配列のキーボードです。マウスも同じく有線の1ホイール2ボタンと極めてベーシックな物でした。
正直「今時有線接続かよ?」とは思いましたが、コスト優先で考えればこれも致し方ない事、ファミリーユースを考えればむしろ耐久性の面でこの方が好ましいのかも知れません。
そのファミリーユースにはマルチユーザーに対応したAndroid4.2の搭載が正にドンピシャなんですが、子供が使う事を想定するならば更にアクセス制限を加えられるAndroid4.3にして出荷を始めるべきでしょうね。
4.総括
今回発表されたタブレット製品群、日本hpではマーケットインによる製品開発を行った結果上記のラインナップになったとの事、確かにそれぞれの製品は多様化するニーズに応えた物に見えます。しかしながら、特徴あるハードウェアをどの様に活用していくのか、アプリを含めた具体的な利用シーンやユーザー体験がが今一つ明確に見えて来ませんでした。
hpとしてはWindowsもAndroidも同じパソコンであり、同社のマルチOS(プラットホーム)戦略に沿ったもの、従ってAndroidの市場も従来のWindowsPCと同様に多種多様なラインナップを揃える事こそが、多様化するマーケットをカバーしながらhpの存在感を高めていくシナリオである事は理解できます。
しかしながら、特定用途のビジネス市場であればそれも良いのでしょうけれど、コンシューマー市場、特に多彩なAndroidタブレットをどの様に使って貰いたいのか、メーカーが考える具体的なシーンを描けないままでいると進化が著しいタブレット市場では他メーカーとの競争の中でブランドが埋没してしまう可能性があります。
また低価格も一つの販売施策ではありますが、新興国ならばともかくハイスペックな製品に慣れた国内においては、価格のために切り捨てられた機能にも消費者は結構敏感だったりします。そんな割り切ったスペックをユーザーは納得して受け入れられるのか、その観点からも、もう一歩踏み込んだマーケティング上の戦略がないと製品のラインナップだけでタブレット市場にhpの存在感を示し続ける事は難しいように思います。
発売まで未だ少し時間がありますので、今後の営業施策に期待したいと思います。
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